Past (過去)
J は、週に一度はこの事務所に顔をだす。
仕事は、中学校の英語指導助手というものらしい。
今は全国の中学校に、助手がきているという。
K が中学生の時には、なかった制度だ。
<英語教師の補助? 英語教師は何をやっているのだろう。>
K はここに採用になる前に、公民館でおこなわれる大人の英会話教室に
申し込みをしてあった。
週に一度、夜の講座だ。
J は、この講座の先生もやるらしい。
SHINOMIYA 係長が、講座の教材の心配をしている。
いつものように、身振り手振りで J とやりとりしている。
J は、自分で用意するから必要ないと言っている。
しばらくは口出ししないで聞いていた K だが、全く伝わっていないので
”自分で用意するから必要ないって言ってます。”と、
SHINOMIYA係長に伝える。
<これで、よく仕事になっていたものだ。>
K は、自分が講座の申し込みをしてあることを、J に言う。
J は、” You are my student.”と、ちょっと偉そうに答える。
この事務所の人たちは、出張のたびにみんなお土産を買ってくる。
もらいものも含め K は、 J にも全部分けることに決めた。
机の上に置いてあるお菓子をみて、”これ、誰がくれたの?”と、聞く。
<きちんとしているな。>
J の机の上にだけは、いつもお菓子がのっているようになった。
給食センターのセンター長が、事務所に入ってくる。
週に何度も顔を出す。
K は、この人にも必ずコーヒーをだしてあげている。
”これ。”と言って、紙を数枚わたされる。
給食費と書いてある。
J が学校で食べている、昼食代らしい。
何カ月分もある。
<英語ができないから、自分でわたせなかったのだろうか?>
J なら、”これは何ですか?”と、聞くだろう。
説明できないので、今まで請求していなかった事になる。
<随分、いい加減だな。>
K を通訳として使うつもりらしい。
J 宛てにFAX がきた。
K は使い古しの封筒に入れて、J の机の上においておく。
K ができるプライバシーの尊重のしかただ。
電話も多い。
K がでて、担当者にまわす。
電話が鳴ったので受話器をとると、”Ja~ck?"と、若い男性の声で言う。
たどたどしい英語の感じだ。
K はとっさに、”Not here."と、答えていた。
<まずい、きちんと受け答えしなければ。>
事務所のDOI 指導主事が、”Jack ですか?”と言う。
”あの答えじゃ、まずいですよね。”と、言うと
”とっさに、でてくるだけいいですよ。”と、言う。
K は、予想される電話での受け答えを文章にしておくことにする。
J にチェックしてもらうことにする。
日本語がまったくできない J の強みは、英語だ。
ストレス解消にもなるだろう。
J が来た。
授業のない日は、教育委員会に来ることになっているらしい。
机の上の封筒をあけて、中のFAXを見ている。
不思議そうに、封筒の裏表を見ている。
今までは、そのまま置いてあったのだろう。
<注意深い性格だな。>
K は、頼まれていた昼食代の請求書を、”Invoice."と言って、わたす。
”何の請求書?”と聞いてくる。
<やっぱりね。>
”ランチ、学校でたべてるでしょ。”と言うと、”O.K."と答える。
<偉そうに。>
事務所に来ているときには、彼には特に仕事はない。
暇を持て余すだろう。
K は、作っておいた電話応対の紙をみせて、”Please,check."と言う。
K は、一つ笑える文章を入れておいた。
"He is sick in bed."
J が、声をたてて笑っている。
”Perfect?"と聞くと、”O.K."だそうだ。
K は、J に毎週質問の文章を用意しておくことに決めた。
ぷっと笑える文章を、一つは入れておくことにする。
来客や、電話応対、伝票書きと暇は全くないが、仕事でトラブルはない。
SHINOMIYA係長が、ニコニコしながら
”教育長、履歴書見て若いなあって行ってたよ。”と言う。
K は、年齢よりはるかに若く見えるらしい。
そろそろ今年度の予算残を気にしながら、予算作りをしているらしい。
TADA 課長が、”辞めちゃったからさー。”と残念そうに言っている。
前任者の事らしい。
<辞めるはずのない人が辞めた?何かひっかかる。>
ONODERA教育長が、別室から出てきて”コピーをとりたい。”と、言う。
TAKAHASHIさんが、”私がとります。”と言うと
”いや、わしがとる。”という。
事務所のみんなの腰がうく。
<コピーとりもした事がないのか。>
教育長が、”どうやってとるの。”と K にきく。
民間ではあたりまえのことも、役所では全く違うらしい。
教育長はまるで、殿様扱いだ。
K の歓迎会をしてくれることになった。
<たった6カ月だから、そんなことはしてもらわなくてもいいのに。>
当日、仕事の後で指定された店へ行く。
教育委員会だけだと思っていたら、隣の体育館に入っている
社会教育課の人たちも来ている。
J にも声をかけたそうだが、来ていない。
だれかが電話したとみえて、遅れて入ってきた。
J は、なぜか社会教育課の人たちのほうに、座っている。
<彼らと知り合いなのか?>
食事が終わって、K は挨拶するように言われる。
簡単にすますことにする。
”6カ月間ですが、ご迷惑をかけないよう頑張りますのでよろしくお願いします。”
と挨拶する。
今日は主賓なので、最後まで付き合わなければならないだろう。
2次会へ行く。
少しほぐれてきたようで、K に本音を言いだした。
TADA 課長とSHINOMIYA係長が、”大変だったよな。”という。
SHINOMIYA係長は、”英語ができる人が来てくれてよかった。”と、言う。
”必死だったよ。空港へ迎えに行って、紙に名前を書いたのを持って
でてくるのを待ていた。”と言った。
J とのやりとりを見てきた K には、想像がつく。
K は、”大変でしたね。”と答える。
わいわいとあちこちで話がもりあがり、カラオケで歌い出した。
教育長もデュエット曲を選んで、歌っている。
歌い終わって、K の横に座った教育長が
”私には、選ぶ権利がなかった。”と、K に言う。
顔は、笑っていない。
<えっ!どういう意味だろう。随分失礼な事を言う人だ。>
教育長なら別の人を選ぶという事になる。
<誰が選んだのだろう、何か妙だ。>
3次会へ行く。
J も来ている。
この店はカウンター席だ。
教育長や課長連中は帰って、少人数になった。
社会教育課に同級生がいた。
K は、この町に良い思い出はない。
K が小学生の時、仲のいい友達がいた。
TOMOKOちゃんとは、いつも一緒に遊んでいた。
どういうわけか、K が彼女を、もらいっ子だと言ったということにされた。
町の大人が騒ぎを大きくした。
K に確認してくれれば、ハッキリ否定できただろう。
誰も事実を確認しようとしなかった。
K の同級生には、小学校の校長の娘もいた。
K は学年で一番の成績で、校長の娘より成績が良かった。
TERASAWA 校長は、朝礼で
”心や体に傷をつけないようにしましょう。”と言った。
K は、K に向けた嫌味だと感じた。
<どうして 誰も確認しないのだろう?>
K は、家族がいると思って生きてきていない。
すべて、自分で決めて、自分でやってきた。
いくら困っても、家族を思い出した事はない。
K が成人して親戚の結婚式で、TERASAWA校長とあった。
K のテーブルに来て、向こう端で叔父に”できたよねー。”と言って、
K の方をみていた。
<あいつか。>
K は、挨拶はしない。
無視して食べ続けていると、叔父は”うん、こんな兄だけど。”と
隣に座っていた K の父親にむきつけて言ったのには、驚いた。
隣に座った同級生は、”あんたを、はめてやるって言っていた。”と言って
仕組んだやつの名前を言った。
<なるほどね。>
K は、何十年も刺さっていた棘が、抜けたように感じた。
<やっかみか。>
K は、”こんな小さい小学生が、大人を相手にしてたんだよ。
周りを気にする余裕なんてあるはずないでしょ。”と、言う。
この町の大人が、どれほど騒いでいたかを知っている同級生は
”うん。”とだけ言って、うなずいた。
同級生が、踊り出した。
妙な踊り方に、”やめなさい。”と言われている。
J は一緒になって、楽しそうに踊っている。
帰り道、K は”この町、人悪いよねー。”と言った人物の言葉を思い出した。
<TERASAWA と、今は給食のおばさんのあの女か。
それにしても、誰が自分を選んだのだろう。>
********************* つ づ く
仕事は、中学校の英語指導助手というものらしい。
今は全国の中学校に、助手がきているという。
K が中学生の時には、なかった制度だ。
<英語教師の補助? 英語教師は何をやっているのだろう。>
K はここに採用になる前に、公民館でおこなわれる大人の英会話教室に
申し込みをしてあった。
週に一度、夜の講座だ。
J は、この講座の先生もやるらしい。
SHINOMIYA 係長が、講座の教材の心配をしている。
いつものように、身振り手振りで J とやりとりしている。
J は、自分で用意するから必要ないと言っている。
しばらくは口出ししないで聞いていた K だが、全く伝わっていないので
”自分で用意するから必要ないって言ってます。”と、
SHINOMIYA係長に伝える。
<これで、よく仕事になっていたものだ。>
K は、自分が講座の申し込みをしてあることを、J に言う。
J は、” You are my student.”と、ちょっと偉そうに答える。
この事務所の人たちは、出張のたびにみんなお土産を買ってくる。
もらいものも含め K は、 J にも全部分けることに決めた。
机の上に置いてあるお菓子をみて、”これ、誰がくれたの?”と、聞く。
<きちんとしているな。>
J の机の上にだけは、いつもお菓子がのっているようになった。
給食センターのセンター長が、事務所に入ってくる。
週に何度も顔を出す。
K は、この人にも必ずコーヒーをだしてあげている。
”これ。”と言って、紙を数枚わたされる。
給食費と書いてある。
J が学校で食べている、昼食代らしい。
何カ月分もある。
<英語ができないから、自分でわたせなかったのだろうか?>
J なら、”これは何ですか?”と、聞くだろう。
説明できないので、今まで請求していなかった事になる。
<随分、いい加減だな。>
K を通訳として使うつもりらしい。
J 宛てにFAX がきた。
K は使い古しの封筒に入れて、J の机の上においておく。
K ができるプライバシーの尊重のしかただ。
電話も多い。
K がでて、担当者にまわす。
電話が鳴ったので受話器をとると、”Ja~ck?"と、若い男性の声で言う。
たどたどしい英語の感じだ。
K はとっさに、”Not here."と、答えていた。
<まずい、きちんと受け答えしなければ。>
事務所のDOI 指導主事が、”Jack ですか?”と言う。
”あの答えじゃ、まずいですよね。”と、言うと
”とっさに、でてくるだけいいですよ。”と、言う。
K は、予想される電話での受け答えを文章にしておくことにする。
J にチェックしてもらうことにする。
日本語がまったくできない J の強みは、英語だ。
ストレス解消にもなるだろう。
J が来た。
授業のない日は、教育委員会に来ることになっているらしい。
机の上の封筒をあけて、中のFAXを見ている。
不思議そうに、封筒の裏表を見ている。
今までは、そのまま置いてあったのだろう。
<注意深い性格だな。>
K は、頼まれていた昼食代の請求書を、”Invoice."と言って、わたす。
”何の請求書?”と聞いてくる。
<やっぱりね。>
”ランチ、学校でたべてるでしょ。”と言うと、”O.K."と答える。
<偉そうに。>
事務所に来ているときには、彼には特に仕事はない。
暇を持て余すだろう。
K は、作っておいた電話応対の紙をみせて、”Please,check."と言う。
K は、一つ笑える文章を入れておいた。
"He is sick in bed."
J が、声をたてて笑っている。
”Perfect?"と聞くと、”O.K."だそうだ。
K は、J に毎週質問の文章を用意しておくことに決めた。
ぷっと笑える文章を、一つは入れておくことにする。
来客や、電話応対、伝票書きと暇は全くないが、仕事でトラブルはない。
SHINOMIYA係長が、ニコニコしながら
”教育長、履歴書見て若いなあって行ってたよ。”と言う。
K は、年齢よりはるかに若く見えるらしい。
そろそろ今年度の予算残を気にしながら、予算作りをしているらしい。
TADA 課長が、”辞めちゃったからさー。”と残念そうに言っている。
前任者の事らしい。
<辞めるはずのない人が辞めた?何かひっかかる。>
ONODERA教育長が、別室から出てきて”コピーをとりたい。”と、言う。
TAKAHASHIさんが、”私がとります。”と言うと
”いや、わしがとる。”という。
事務所のみんなの腰がうく。
<コピーとりもした事がないのか。>
教育長が、”どうやってとるの。”と K にきく。
民間ではあたりまえのことも、役所では全く違うらしい。
教育長はまるで、殿様扱いだ。
K の歓迎会をしてくれることになった。
<たった6カ月だから、そんなことはしてもらわなくてもいいのに。>
当日、仕事の後で指定された店へ行く。
教育委員会だけだと思っていたら、隣の体育館に入っている
社会教育課の人たちも来ている。
J にも声をかけたそうだが、来ていない。
だれかが電話したとみえて、遅れて入ってきた。
J は、なぜか社会教育課の人たちのほうに、座っている。
<彼らと知り合いなのか?>
食事が終わって、K は挨拶するように言われる。
簡単にすますことにする。
”6カ月間ですが、ご迷惑をかけないよう頑張りますのでよろしくお願いします。”
と挨拶する。
今日は主賓なので、最後まで付き合わなければならないだろう。
2次会へ行く。
少しほぐれてきたようで、K に本音を言いだした。
TADA 課長とSHINOMIYA係長が、”大変だったよな。”という。
SHINOMIYA係長は、”英語ができる人が来てくれてよかった。”と、言う。
”必死だったよ。空港へ迎えに行って、紙に名前を書いたのを持って
でてくるのを待ていた。”と言った。
J とのやりとりを見てきた K には、想像がつく。
K は、”大変でしたね。”と答える。
わいわいとあちこちで話がもりあがり、カラオケで歌い出した。
教育長もデュエット曲を選んで、歌っている。
歌い終わって、K の横に座った教育長が
”私には、選ぶ権利がなかった。”と、K に言う。
顔は、笑っていない。
<えっ!どういう意味だろう。随分失礼な事を言う人だ。>
教育長なら別の人を選ぶという事になる。
<誰が選んだのだろう、何か妙だ。>
3次会へ行く。
J も来ている。
この店はカウンター席だ。
教育長や課長連中は帰って、少人数になった。
社会教育課に同級生がいた。
K は、この町に良い思い出はない。
K が小学生の時、仲のいい友達がいた。
TOMOKOちゃんとは、いつも一緒に遊んでいた。
どういうわけか、K が彼女を、もらいっ子だと言ったということにされた。
町の大人が騒ぎを大きくした。
K に確認してくれれば、ハッキリ否定できただろう。
誰も事実を確認しようとしなかった。
K の同級生には、小学校の校長の娘もいた。
K は学年で一番の成績で、校長の娘より成績が良かった。
TERASAWA 校長は、朝礼で
”心や体に傷をつけないようにしましょう。”と言った。
K は、K に向けた嫌味だと感じた。
<どうして 誰も確認しないのだろう?>
K は、家族がいると思って生きてきていない。
すべて、自分で決めて、自分でやってきた。
いくら困っても、家族を思い出した事はない。
K が成人して親戚の結婚式で、TERASAWA校長とあった。
K のテーブルに来て、向こう端で叔父に”できたよねー。”と言って、
K の方をみていた。
<あいつか。>
K は、挨拶はしない。
無視して食べ続けていると、叔父は”うん、こんな兄だけど。”と
隣に座っていた K の父親にむきつけて言ったのには、驚いた。
隣に座った同級生は、”あんたを、はめてやるって言っていた。”と言って
仕組んだやつの名前を言った。
<なるほどね。>
K は、何十年も刺さっていた棘が、抜けたように感じた。
<やっかみか。>
K は、”こんな小さい小学生が、大人を相手にしてたんだよ。
周りを気にする余裕なんてあるはずないでしょ。”と、言う。
この町の大人が、どれほど騒いでいたかを知っている同級生は
”うん。”とだけ言って、うなずいた。
同級生が、踊り出した。
妙な踊り方に、”やめなさい。”と言われている。
J は一緒になって、楽しそうに踊っている。
帰り道、K は”この町、人悪いよねー。”と言った人物の言葉を思い出した。
<TERASAWA と、今は給食のおばさんのあの女か。
それにしても、誰が自分を選んだのだろう。>
********************* つ づ く
2012-05-31 20:14
Past (過去)
Kはここで仕事を始めるにあたって、決めた事がある。
1、来客があるので、服装はスーツにする。
2、電話応対の邪魔になるので、イヤリングはしない。
3、Jは日本語が話せないので、必要な事は通訳してあげる。
4、公私混同は、しない。
Kは仕事志向の人間だ。
仕事は仕事と、割り切るタイプ。
今まで必要と思われる資格は、自分のお金と時間を使って取ってきた。
TADA課長に連れられて、役場へ挨拶に行く。
この町の教育委員会は、役場とは別の建物の公民館に入っている。
役場へ行く道すがら、TADA課長は”Jは日本語がわからないから、大変だった。身振り手振りでなんとかや
ってきた。”と言った。
役場に着いて、各課に挨拶に行く。
総務課のENDOさんが、”一般の保険掛けておきましたから。”という。
<えっ! 6カ月じゃないの?>
TADA課長と一緒に事務所に戻る。
Kは、民間で仕事をしてきた。
役所とは不思議なところで、”こうしなさい。”とは言わない。
におわすだけらしい。
Kは、デスクの引き出しをあけてみる。
簡単な引き継ぎ書と、毎月必要になる伝票が何ヶ月分も記入して準備してある。
<急に辞めたのだろうか?>
前任者は公務員だったらしい。
<公務員になるという事は、一生辞めたくないからなるのだろうに・・・>
Kの向かいのデスクには、口数の少ないTAKAHASHIさん。
”何ヶ月も事務の人いなかったんだ。”と言う。
彼が事務処理も兼務していたらしい。
彼の隣には、Jの上司になるSHINOMIYA係長がいる。
SHINOMIYA係長が、”教育委員会は要注意なんだよねー。”とニコニコしながら、Kに向かって言う。
<どういう意味だろう>
役所は予算に合わせて経費を使うことになる。
来年度の予算をそろそろ作る時期らしい。
SHINOMIYA係長が、TADA課長に小声で言っているのが聞こえる。
”またSAKURAが、ごちゃごちゃ言うんだろうさ。”
課長が、”う~ん”と暗い顔つきになる。
人口3000人のこんな田舎町から、全道の商工会頭になっている人物がいる。
この町の議員でもある。
<あのSAKURAのことか。>
役所は、議員に頭があがらないらしい。
Kは、朝昼、職員にお茶出しをする。
事務所とつづきの別室にいる教育長にもお茶を持っていく。
ONODERA MORIHIKOと名札を立ててある。
彼は鳴り物入りで、この町に来たらしい。
彼の前職は、道立図書館の副館長だったという。
<どうして、こんな肩書きの人がこの町に来たのだろう。>
Kがこの事務所に勤め始めて、一週間もたっていない。
ここの人たちは、どうやってJとコミュニケーションをしてきたのだろうと不思議に思う。
Jは、日本語が全く話せない。
事務所の人たちは、日本語を英語なまりのように言っている。
片言の英単語を繰り返して言うだけだ。
Jは、”Yes,Yes."とあいずちをうっている。
Kは、仕事で必要になってもいいように、レベルが落ちないよう英語の勉強も続けてきた。
Jの仕事がうまくいくように、通訳してあげることにした。
Kが給湯室で茶碗を洗っていると、SHINOMIYA係長が入ってきて、”次、きまってるの?”と言って出ていく。
<えっ! 6ヶ月じゃないの?>
事務所の入り口に人の気配がする。
YAMAZAKI町長が、”TAKAHASHI、お茶買ってきてくれ。”と言って1000円札を出している。
Kが”買ってきましょうか。”と言うと、”いや、TAKAHASHI、買ってきてくれ。”という。
TAKAHASHIさんが、椅子から飛びあがり、急いで入口へ行く。
公民館で会議をやることになっているが、来客のお茶出しは、いつもはKがやっている。
<何かやましいことでもあるのだろうか、事務所に入ってくることもできないし、お茶出しも頼めない?仕事と
して割り切ってやっているのに・・・>
このYAMAZAKI町長には、何かある。
町長選挙の真っ最中に、対抗馬を担いだ陣営から自殺者が出ている。
自殺したのは、担がれた対抗馬の親友。
対抗馬を担いだのは、この町の議員KIKUCHI兄弟。
<何か、妙だ。>
********************** つ づ く
1、来客があるので、服装はスーツにする。
2、電話応対の邪魔になるので、イヤリングはしない。
3、Jは日本語が話せないので、必要な事は通訳してあげる。
4、公私混同は、しない。
Kは仕事志向の人間だ。
仕事は仕事と、割り切るタイプ。
今まで必要と思われる資格は、自分のお金と時間を使って取ってきた。
TADA課長に連れられて、役場へ挨拶に行く。
この町の教育委員会は、役場とは別の建物の公民館に入っている。
役場へ行く道すがら、TADA課長は”Jは日本語がわからないから、大変だった。身振り手振りでなんとかや
ってきた。”と言った。
役場に着いて、各課に挨拶に行く。
総務課のENDOさんが、”一般の保険掛けておきましたから。”という。
<えっ! 6カ月じゃないの?>
TADA課長と一緒に事務所に戻る。
Kは、民間で仕事をしてきた。
役所とは不思議なところで、”こうしなさい。”とは言わない。
におわすだけらしい。
Kは、デスクの引き出しをあけてみる。
簡単な引き継ぎ書と、毎月必要になる伝票が何ヶ月分も記入して準備してある。
<急に辞めたのだろうか?>
前任者は公務員だったらしい。
<公務員になるという事は、一生辞めたくないからなるのだろうに・・・>
Kの向かいのデスクには、口数の少ないTAKAHASHIさん。
”何ヶ月も事務の人いなかったんだ。”と言う。
彼が事務処理も兼務していたらしい。
彼の隣には、Jの上司になるSHINOMIYA係長がいる。
SHINOMIYA係長が、”教育委員会は要注意なんだよねー。”とニコニコしながら、Kに向かって言う。
<どういう意味だろう>
役所は予算に合わせて経費を使うことになる。
来年度の予算をそろそろ作る時期らしい。
SHINOMIYA係長が、TADA課長に小声で言っているのが聞こえる。
”またSAKURAが、ごちゃごちゃ言うんだろうさ。”
課長が、”う~ん”と暗い顔つきになる。
人口3000人のこんな田舎町から、全道の商工会頭になっている人物がいる。
この町の議員でもある。
<あのSAKURAのことか。>
役所は、議員に頭があがらないらしい。
Kは、朝昼、職員にお茶出しをする。
事務所とつづきの別室にいる教育長にもお茶を持っていく。
ONODERA MORIHIKOと名札を立ててある。
彼は鳴り物入りで、この町に来たらしい。
彼の前職は、道立図書館の副館長だったという。
<どうして、こんな肩書きの人がこの町に来たのだろう。>
Kがこの事務所に勤め始めて、一週間もたっていない。
ここの人たちは、どうやってJとコミュニケーションをしてきたのだろうと不思議に思う。
Jは、日本語が全く話せない。
事務所の人たちは、日本語を英語なまりのように言っている。
片言の英単語を繰り返して言うだけだ。
Jは、”Yes,Yes."とあいずちをうっている。
Kは、仕事で必要になってもいいように、レベルが落ちないよう英語の勉強も続けてきた。
Jの仕事がうまくいくように、通訳してあげることにした。
Kが給湯室で茶碗を洗っていると、SHINOMIYA係長が入ってきて、”次、きまってるの?”と言って出ていく。
<えっ! 6ヶ月じゃないの?>
事務所の入り口に人の気配がする。
YAMAZAKI町長が、”TAKAHASHI、お茶買ってきてくれ。”と言って1000円札を出している。
Kが”買ってきましょうか。”と言うと、”いや、TAKAHASHI、買ってきてくれ。”という。
TAKAHASHIさんが、椅子から飛びあがり、急いで入口へ行く。
公民館で会議をやることになっているが、来客のお茶出しは、いつもはKがやっている。
<何かやましいことでもあるのだろうか、事務所に入ってくることもできないし、お茶出しも頼めない?仕事と
して割り切ってやっているのに・・・>
このYAMAZAKI町長には、何かある。
町長選挙の真っ最中に、対抗馬を担いだ陣営から自殺者が出ている。
自殺したのは、担がれた対抗馬の親友。
対抗馬を担いだのは、この町の議員KIKUCHI兄弟。
<何か、妙だ。>
********************** つ づ く
2012-03-23 21:24
Past (過去)
ONODERAさん
あなたの知恵は、悪知恵ですか。
Kは、優しくて正直で強い知恵者が好きです。
この人、ある町のりっぱな肩書の持ち主。
人は、この肩書に騙されやすい。
肩書に見合った人間であることを期待する。
だだし、太古の昔から賢者の統治が行われたためしがない。
したがって、今後もないそうである。
さて、庶民としてはどうするか。
ささやかな抵抗を試みることになる。
心強い味方が一人でもいれば・・・
KとJは、目だけで話ができる。
ぴったり合った、歯車のようなもの。
周囲の思惑や小細工で、微妙にずれた、ずれさせられた歯車が、どんな恐ろしい結果を招く事になるか、誰も予想がつかなかったはず。
***********************************************************************************************************************
ここは役所のデスク、外は雪。
Kの隣には、外国人のJ。
Jには全く違和感がない。
美術館に電話がかかってきた。
”いろいろ考えて、あなたに決めました。”と担当者が言う。
”ありがとうございました。”と答えるK。
<いろいろ考えた?どういう意味だろう>
この美術館にも問題がある。
嫌いな仕事ではないが、続けてもいいことはなさそうだ。
新聞に事務員募集のチラシがはいっていた。
”ここへ履歴書出したか”と父が言う。
<おかしな事を言うな、この人ほど役所に嫌われている人間はいないのに>
Kは相手にしない。
美術館の仕事は嫌いではない。
数日後、”ここに入って、改革してくれ”としつこくまた言う。
<役所がこの人の娘を雇うはずがない>
どうせ採用になるなるはずはないと思いながら、町の教育委員会へ履歴書を持っていく。
不思議なことに、採用の連絡がきた。
<どうせ臨時だ、6か月だけだからいいか>
10月、勤務の初日事務所へ行くと、Kの隣の席に外国人が座っている。
<こんな田舎にも、外国人が来ているのか>
Kは都会で仕事をしていた。
この町の事情には、うとい。
***** つ づ く
あなたの知恵は、悪知恵ですか。
Kは、優しくて正直で強い知恵者が好きです。
この人、ある町のりっぱな肩書の持ち主。
人は、この肩書に騙されやすい。
肩書に見合った人間であることを期待する。
だだし、太古の昔から賢者の統治が行われたためしがない。
したがって、今後もないそうである。
さて、庶民としてはどうするか。
ささやかな抵抗を試みることになる。
心強い味方が一人でもいれば・・・
KとJは、目だけで話ができる。
ぴったり合った、歯車のようなもの。
周囲の思惑や小細工で、微妙にずれた、ずれさせられた歯車が、どんな恐ろしい結果を招く事になるか、誰も予想がつかなかったはず。
***********************************************************************************************************************
ここは役所のデスク、外は雪。
Kの隣には、外国人のJ。
Jには全く違和感がない。
美術館に電話がかかってきた。
”いろいろ考えて、あなたに決めました。”と担当者が言う。
”ありがとうございました。”と答えるK。
<いろいろ考えた?どういう意味だろう>
この美術館にも問題がある。
嫌いな仕事ではないが、続けてもいいことはなさそうだ。
新聞に事務員募集のチラシがはいっていた。
”ここへ履歴書出したか”と父が言う。
<おかしな事を言うな、この人ほど役所に嫌われている人間はいないのに>
Kは相手にしない。
美術館の仕事は嫌いではない。
数日後、”ここに入って、改革してくれ”としつこくまた言う。
<役所がこの人の娘を雇うはずがない>
どうせ採用になるなるはずはないと思いながら、町の教育委員会へ履歴書を持っていく。
不思議なことに、採用の連絡がきた。
<どうせ臨時だ、6か月だけだからいいか>
10月、勤務の初日事務所へ行くと、Kの隣の席に外国人が座っている。
<こんな田舎にも、外国人が来ているのか>
Kは都会で仕事をしていた。
この町の事情には、うとい。
***** つ づ く
2011-01-10 03:45