Past (過去)

Kはここで仕事を始めるにあたって、決めた事がある。

1、来客があるので、服装はスーツにする。

2、電話応対の邪魔になるので、イヤリングはしない。

3、Jは日本語が話せないので、必要な事は通訳してあげる。

4、公私混同は、しない。

Kは仕事志向の人間だ。

仕事は仕事と、割り切るタイプ。

今まで必要と思われる資格は、自分のお金と時間を使って取ってきた。



TADA課長に連れられて、役場へ挨拶に行く。

この町の教育委員会は、役場とは別の建物の公民館に入っている。

役場へ行く道すがら、TADA課長は”Jは日本語がわからないから、大変だった。身振り手振りでなんとかや

ってきた。”と言った。

役場に着いて、各課に挨拶に行く。

総務課のENDOさんが、”一般の保険掛けておきましたから。”という。

<えっ! 6カ月じゃないの?>



TADA課長と一緒に事務所に戻る。

Kは、民間で仕事をしてきた。

役所とは不思議なところで、”こうしなさい。”とは言わない。

におわすだけらしい。

Kは、デスクの引き出しをあけてみる。

簡単な引き継ぎ書と、毎月必要になる伝票が何ヶ月分も記入して準備してある。

<急に辞めたのだろうか?>

前任者は公務員だったらしい。

<公務員になるという事は、一生辞めたくないからなるのだろうに・・・>

Kの向かいのデスクには、口数の少ないTAKAHASHIさん。

”何ヶ月も事務の人いなかったんだ。”と言う。

彼が事務処理も兼務していたらしい。

彼の隣には、Jの上司になるSHINOMIYA係長がいる。

SHINOMIYA係長が、”教育委員会は要注意なんだよねー。”とニコニコしながら、Kに向かって言う。

<どういう意味だろう>

役所は予算に合わせて経費を使うことになる。

来年度の予算をそろそろ作る時期らしい。

SHINOMIYA係長が、TADA課長に小声で言っているのが聞こえる。

”またSAKURAが、ごちゃごちゃ言うんだろうさ。”

課長が、”う~ん”と暗い顔つきになる。

人口3000人のこんな田舎町から、全道の商工会頭になっている人物がいる。

この町の議員でもある。

<あのSAKURAのことか。>

役所は、議員に頭があがらないらしい。


Kは、朝昼、職員にお茶出しをする。

事務所とつづきの別室にいる教育長にもお茶を持っていく。

ONODERA MORIHIKOと名札を立ててある。

彼は鳴り物入りで、この町に来たらしい。

彼の前職は、道立図書館の副館長だったという。

<どうして、こんな肩書きの人がこの町に来たのだろう。>



Kがこの事務所に勤め始めて、一週間もたっていない。

ここの人たちは、どうやってJとコミュニケーションをしてきたのだろうと不思議に思う。

Jは、日本語が全く話せない。

事務所の人たちは、日本語を英語なまりのように言っている。

片言の英単語を繰り返して言うだけだ。

Jは、”Yes,Yes."とあいずちをうっている。

Kは、仕事で必要になってもいいように、レベルが落ちないよう英語の勉強も続けてきた。

Jの仕事がうまくいくように、通訳してあげることにした。

Kが給湯室で茶碗を洗っていると、SHINOMIYA係長が入ってきて、”次、きまってるの?”と言って出ていく。

<えっ! 6ヶ月じゃないの?>


事務所の入り口に人の気配がする。

YAMAZAKI町長が、”TAKAHASHI、お茶買ってきてくれ。”と言って1000円札を出している。

Kが”買ってきましょうか。”と言うと、”いや、TAKAHASHI、買ってきてくれ。”という。

TAKAHASHIさんが、椅子から飛びあがり、急いで入口へ行く。

公民館で会議をやることになっているが、来客のお茶出しは、いつもはKがやっている。

<何かやましいことでもあるのだろうか、事務所に入ってくることもできないし、お茶出しも頼めない?仕事と

して割り切ってやっているのに・・・>

このYAMAZAKI町長には、何かある。

町長選挙の真っ最中に、対抗馬を担いだ陣営から自殺者が出ている。

自殺したのは、担がれた対抗馬の親友。

対抗馬を担いだのは、この町の議員KIKUCHI兄弟。

<何か、妙だ。>



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